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サスティナブル・コンストラクションの研究成果報告
【欧州のリードマーケット・イニシアティブにおけるサスチィナブル建設】

欧州のリード・マーケット・イニシアティブにおける
サスティナブル・コンストラクション(持続可能な建設)


前橋工科大学 学長 辻 幸和

1.はじめに

わが国においてもサスティナビリティの用語とともに、
建設分野ではサスティナブル・コンストラクション
(持続可能な建設:Sustainable Construction)が注目されてきた。

この用語が本来、欧州連合(EU)域内の経済成長戦略のリード・マーケット・イニシアティブ
(LMI:Lead Market Initiative for Europe)の中で採用されている6分野の1分野であることは、
これまで建設分野の関係者の間でもあまり知られていないように思われる。

わが国でもこれまで、産官学連携による種々な経済成長戦略を実施して成果を上げてきたし、
現在も「新成長戦略」を積極的に推進している。

経済成長戦略を策定し、それに基づき選定された有望な分野に係る法制を整備し、
財政などを優先的に投入していくことは、国の発展のための基本的な重要戦略である。

欧州連合(EU)については現在、財政分野の対応が特に注目されているものの、
経済成長戦略のリード・マーケット・イニシアティブ(LMI)は、あまり知られていないように思われる。

本文では、わが国でも大きな関心を持つべきと考えられる欧州の
リード・マーケット・イニシアティブ(LMI)における6経済成長戦略の分野の1つである
「サスティナブル・コンストラクション(持続可能な建設)」の選定経緯とその内容を概説する。

2.リード・マーケット・イニシアティブ(LMI)の経緯と内容

LMIとは、欧州企業の国際競争力を向上させるため、
変革的な域内市場を構築しようとする経済成長戦略である。
別の表現をすれば、イノベーションな「リード・マーケット」
(変革的であり、経済的および社会的価値の高い新興産業分野の市場)を創出するための
経済成長戦略であるともいえる。

また、購入者や消費者の視点を、従来に増して高めている点にも特徴がある。
LMIは、2007年12月に欧州委員会から公表された。対象分野は、図─1に示す
(1)電子健康診断(eHealth)、(2)持続可能な建設(Sustainable Construction)、
(3)防護繊維、(4)バイオ基盤製品、(5)リサイクル、(6)再生可能エネルギーの6分野である。

LMI-3

わが国の新成長戦略とは異なり、持続可能な建設(サスティナブル・コンストラクション)が、
新成長の産業分野として採用されていることは特に注目すべきことである。

選定の理由は、選定された6つの市場はいずれも極めて変革的であり、
欧州において強い技術的および産業的基盤を有しているものであるためである。

そして(2)の「サスティナブル・コンストラクション(持続可能な建設)」の分野は、他の5分野に比べて、
市場よりも公的政策方策を通して好ましい枠組み条件を構築することがより重要であるためでもある。

3.LMIの実施

LMI-4

LMIの実施のためには、図─1と図─2に示す 1.利用し易い規格の開発、2.法制の大幅な改善、
3.公共調達の促進がそれぞれ必要である。すなわち、具体的には、

(1)イノベーションに適した技術基準などの「規格の策定」、
(2)イノベーションの促進やイノベーション企業の負担軽減のための「法令の策定」、
(3)イノベーション製品を公共機関が率先して購入するなどの「公共調達」等を主な手段として、
   マーケット(市場)の育成や成長を支援していくことである。

LMIの実施は、前述したように2007年12月に欧州委員会からLMIが公表された時に始まり、
2020年を最終年度としている。開始時の予測では、表─1に示すように、6分野の合計で2006年度をベースに、
年間売上高で1200億ユーロが2000億ユーロに拡大するとしている。

LMI-1

また雇用は、190万人が300万人に拡大するとしている。今回の財政問題でこの予測が低くなるものの、
LMIは大きな成長をもたらすものである。
そして、6分野に属する企業はグローバルな市場を先導することが期待されている。

そのような予測を実現するために、6分野の特徴を生かして成長の枠組みと行動計画を、
2011年末までに構築している。図─1で示した補完的な活動例が、その具体的な行動計画の例である。

4.持続可能な建設(サスティナブル・コンストラクション)の分野について

LMIの実施のために先に述べて(1)イノベーションに適した技術基準などの「規格の策定」を行うことは、
CEN(European Committee for Standardization:欧州標準化委員会)で検討され、
建設分野においてもCENのTC250専門委員会
(ユーロコード、Structural Eurocodes:欧州構造基準)でも検討されてきた。

そして、LMIを実施するターゲットとして、ユーロコードの今後の改正に関するプログラミングマンデート
(Programming Mandate)の検討を終えている。

また、LMIの中で掲げられている(2)持続可能な建設(Sustainable Construction)に関しては、
CEN/BT WG 206(CEN Contribution to EC LMI on Sustainable Construction)で検討を行っている。
すなわち、現状の規格に不足はないか、またあるとすれば何が不足しているかといった
規格インベントリ(体系)の作成を検討しているとともに、既存の規格相互間の整合性を確認している。

欧州委員会の建設運営委員会(Standing Committee on Construction :SCC)では、
CPD(Construction Products Directive:建設製品指令)を改正して
規制力の強いCPR(Construction Products Regulation:
建設製品規則)(案)とすることがこれまでに活発に議論され、ほぼその成案が得られている。

そして、CPRの中に新規の7番目の基本的要求事項(Basic Work Requirements:BWR)として
「Sustainable Use of Natural Resources:自然資源の持続可能な使用」を盛り込んだところである(下写真)。

LMI-2

従来のCPDは建設製品にのみ適用されている「指令」であり、約600件の規格が該当し、
貿易障壁を撤廃することを主たる目的としている。EUの法体系において、CPRはCPDの「指令」よりも
強制力の強い「規則」であり、LMIに寄与する見地からも「規則」を制定しようとしている。

そのため、CPRのカバーする範囲は格段に拡がり、建設構造物の計画、設計、施工、維持管理、
解体までを包含するものとなり、約1000件の規格が該当する。
欧州のGDPの約10%を占める建設分野は、産業界における大きな位置付けを示している。

5.おわりに

これまで20年近く、建設分野におけるISO(国際標準化機構)の規格作りに携わってきた。
国際規格の作成づくりは、各国で得られた技術開発の成果を如何に盛り込み、実施させ、
技術開発した企業や国がグローバルな市場で如何に大きな果実を得るかの戦略の場ともいえる。

建設分野のISOの規格作りにおいても最近は、ここで紹介したリード・マーケット・イニシアティブ(LMI)における
サスティナブル・コンストラクション(持続可能な建設:Sustainable Construction)が
必ず話題に出てくるほどになっている。

本文が、わが国における建設分野の経済成長戦略の実施において参考になれば、幸甚である。




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