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サスティナブル・コンストラクションの研究成果報告
【社会基盤の長寿命化】

サスティナブル・コンストラクション(持続可能な建設)における
橋梁長寿命化計画の位置付けと概要


前橋工科大学 学長 辻 幸和

1.橋梁長寿命化計画策定の背景と目的

高度成長期に建設された多くの橋梁は、適切な維持管理が伴わないと、
近い将来に更新時期を迎えることとなる。
今後は、これら橋梁に対する維持・修繕・架替えに多くの費用が必要とされることの懸念が生じている。
このような状況は、国のみならず各都道府県や市町村でも明らかになってきた。
各地方公共団体では「橋梁長寿命化計画」を策定することで、より計画的に、
また効率的に橋梁の管理を行い、維持・修繕・架替えに係る費用を縮減し、また予算を平準化して、
合理的で経済的な維持管理の実現を目指している。
このような「橋梁長寿命化計画」は、2007年4月に国土交通省道路局長より出された
「長寿命化修繕計画策定事業費補助制度要綱」に従って、一般に策定されている。

このような「橋梁長寿命化計画」は、わが国におけるサスティナブル・コンストラクション
(持続可能な建設)の典型的な具体策である。
この具体策は、欧州連合(EU)域内の経済成長戦略である
リード・マーケット・イニシアティブ(LMI:Lead Market Initiative for Europe)の中で
採択されている補完的な活動例に対比することができる。
すなわち、LMIで採択され実施されている
「サスティナブル・コンストラクション(持続可能な建設)」における補完的な活動例に、
わが国の「橋梁長寿命化計画」は対比して挙げることができると考えられる。

2.管理橋梁の現状

国または各地方公共団体が管理する橋梁の多くが、高度成長期に建設された橋梁となっており、
建設後50年を経過する高齢化橋梁は、今後も急激に増加していく状況となっている。
例えば、群馬県が管理する橋梁は、2010年7月現在2,500橋であり、このうち、
建設後50年を経過する高齢化橋梁は、2009年12月末現在で約640橋あり、
全体の約26%を占めているものの、20年後には、この割合が約70%の約1750橋となり、
高齢化した橋梁が急速に増加していくことは、明らかとなっている。

なお、各地方公共団体が管理する橋梁の種類について、
RC橋とPC橋のコンクリート橋および鋼橋の割合はそれぞれ異なる。
そして市町村が管理する橋梁は、国や都道府県に比べてその平均の橋長が短く、
コンクリート橋が鋼橋に比べて多い特徴がある。

3.計画策定にあたっての取組み方針

道路交通の安全性を確保するために、道路管理者は橋梁については、これまでの事後対症療法的な対応から、
計画的かつ予防保全的な対応に転換を図っている。すなわち、橋梁自体の長寿命化によりコストを縮減し、
また予算を平準化して、合理的で経済的な維持管理の実現を図っている。

各地方公共団体が取り組む橋梁の長寿命化計画の策定にあたっては、
合理的で説明責任の果たせるものとするために、種々の取組みがなされている。
そして都道府県レベルでは、「市町村へも提供できるメンテナンスシステムの構築」についても、
取組み方針の柱に含めている。
たとえば群馬県では、以下の(1)から(4)の4つを取組み方針の柱と定めている。

(1)既設橋に限らず新設橋も含めた、
   今後100年間におけるトータルメンテナンスマネジメントシステムの構築

橋梁の維持管理は長寿命化計画の名のもとに実行し、その計画は新設橋の設計時点から作成するとともに、
既設橋は定期点検を実施してその健全性を評価した上で、
それぞれ今後の100年間における長寿命化計画を策定している。
そして、耐久性の良い工法や構造を採用して、余寿命LCCが低廉な長寿命化計画とし、
ミニマムメンテナンスのブリッジ化を図っている。

なお、維持管理水準の指標は、国土交通省でも用いている「道路構造物保全率注1)」を採用し、
平成20年度の44%程度を、10年後の平成30年度には100%とすることを目標としている。

(2)健全性に加え、耐荷性と耐震性に配慮した長寿命化計画の策定
既設の橋梁、特に高齢化橋梁については、
点検により利用環境や架設後の経年劣化等に応じて、多くの損傷が確認されている。
このため長寿命化計画においては、これらの損傷を速やかに補修する健全性対策を優先させている。

交通車輌の重量化は年々進んでおり、既設橋梁の設計時において想定した以上の負荷が作用している。
この負荷が起因となり、橋梁の耐荷力が低下することも懸念している。すなわち、今後の点検において、
耐荷力の不足に起因する損傷のため、交通車輌の通行を制限する通行規制が必要になることも懸念している。

また、群馬県の既設橋梁については、
阪神大震災以降に一定のルールに基づき、緊急輸送道路を中心に耐震補強を行ってきている。
今後は、小規模橋梁やその他の路線における橋梁についても、順次耐震補強を行う計画がなされている。

このことから、長期にわたる長寿命化計画は、健全性を優先しながら、
段階的に耐荷性や耐震性に配慮したものとしている。
また、防護柵や地覆の形状寸法等が現行規定に不適格な場合のような「既存不適格の対策」についても、
計画に盛り込んでいる。

(3)環境にも配慮した長寿命化計画の策定
長寿命化計画は、LCCの削減や効率的な維持管理による費用対効果(B/C)を高めるなどの経済性の追求だけでなく、
廃棄物の削減やCO2の削減などの地球環境への負荷を低減させるものとしている。
また、橋梁の景観や美観等の地域環境にも配慮した長寿命化計画を目指している。

長寿命化計画の中で環境負荷低減型橋梁を、「エコブリッジ注2)」と定義している。
既設橋のミニマムメンテネンスのブリッジ化は、限られた有効資源の活用、
これによる廃棄物の削減という観点から、橋梁の長寿命化により環境負荷の低減に繋がる。
また、将来的にはLED照明や太陽光発電などの自然エネルギーの活用等によりCO2排出量の低減を図り、
その普及を目指すものとしている。

(4)県内市町村へも提供できるメンテナンスシステムの構築
既存の「橋梁管理カルテシステム」をバージョンアップして、健全性・耐荷性・耐震性に対する
維持・補修・架替え費用を算出するとともに、長寿命化計画を策定出来るシステムを目指している。
すなわち、長寿命化計画の策定手法および耐久性に優れ、維持管理性の向上を図るミニマムメンテナンスの
ブリッジ化手法を、「群馬県橋梁長寿命化要領(案)」として「群馬県橋梁点検要領(案)」に盛り込み、
群馬県内各市町村にも開示することとしている。

バージョンアップした「橋梁情報管理システムのデータベース(DB)」と「橋梁管理カルテシステム」については、
群馬県内各市町村でも構築する際の参考となるように提供できるものを目指している。
そして、橋梁の長寿命化計画の継続的、効率的な執行のため、さらには市町村への指導を見据えて、
職員の各種講習会等への積極的な参加等を図っている。
このような試みは、技術の研鑽さらには技術の継承を促すものである。

注1) 道路構造物保全率:今後5年間程度は通行規制や重量制限の必要がない段階で、
   予防的修繕が行なわれている延長の割合=対策区分B, A, A0以上の橋梁延長/全橋梁の延長

注2) 「エコブリッジ」;群馬県が今後目指していく、地球環境・地域環境に配慮した橋梁。
   長寿命でLCCが少なく(ミニマムメンテナンスのブリッジ化)かつ環境負荷低減型である橋梁。
   設計・施工・維持管理における使用材料・施工方法の選択活用に際し、
   耐久性の向上と環境負荷の低減を常に配慮することを前提とする。


4.長寿命化計画の対象橋梁

長寿命化計画の対象は、基本的に全ての橋梁を対象としている。
各地方公共団体には、橋長別、橋種別、架橋年別などについて、
「橋梁情報管理システムのデータベース(DB)」が一般に構築されており、そのDBから引き出すことができる。
ただ、町村では、このようなDBが十分に整備されていない場合も多く、
この長寿命化計画の中で構築しなければならないことが多いようである。

5.健全度の把握に関する基本的な方針

各地方公共団体における橋梁管理の目標を満たすための基本方針は、一般に以下のように定めている。

(1) 安全で円滑な交通を確保すること
(2) 沿道や第三者への被害の防止を図ること
(3) 効率的な維持管理を行うための記録を得ること

この基本方針を達成するための橋梁の健全度についての把握には、一般に以下の手順で実施している。

(1) 橋梁点検による健全性の把握
(2) 長寿命化(ミニマムメンテナンスのブリッジ化)を盛り込んだ点検および維持管理計画
(3) 土木遺産として残すべき橋梁の選定
(4) 管理水準の設定
(5) 橋梁全体評価指標の採用

6.対象橋梁の長寿命化および修繕・架替えに係る費用の縮減に関する基本的な方針

健全度の把握および日常的な維持管理に関する基本的な方針とともに、予防的な修繕等の実施を徹底することにより、
修繕・架替えに係る事業費の大規模化および高コスト化を回避し、ライフサイクルコストの縮減を図っている。
そのためには、一般に以下の手順で実施している。

(1) 長寿命化対策としてのシナリオの設定
(2) 優先度の考え方の設定
(3) 長寿命化計画の流れ
(4) 実施計画の作成
(5) ライフサイクルコストの算出
(6) 長寿命化実施計画の作成

最後の長寿命化実施計画の作成においては、今後100年間の維持管理に関する余寿命LCCを算出し比較を行っている。
この場合、維持管理の基本姿勢は予防保全であることを前提としている。
また、100年間は新設橋の設計耐用年数であり、比較する際に必要十分な長さの期間であると想定したものである。

本文の作成においては、「群馬県橋梁長寿命化計画」
平成22年10月 群馬県県土整備部 道路整備課を、参照にさせて頂いた。
附記して、厚くお礼申し上げる。




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